近視とは?見え方の仕組みや原因・予防法を解説
近視とは
ものが見える仕組み
目の構造は、カメラとよく似ています。
目に入ってくる光は、カメラのレンズに相当する角膜(黒目)と水晶体を通り、最終的に目の奥にある網膜(カメラのフィルムに当たる部位)へと到達します。このとき、私たちが「見たいものにピントが合っている」という感覚を得るには、角膜や水晶体で屈折した光が網膜の位置で結ばれる必要があります。網膜上にきちんとピントが合い、「はっきりとものが見える」かどうかは、レンズの屈折力とレンズから網膜までの距離によって決まります。
近視の仕組みを解説
近視とは、目に入ってきた光が網膜よりも手前で焦点を結んでしまう状態のことです。見たいものにうまくピントが合わないため、視界がピンぼけの写真のように見えます。
近視には大きく分けて2つのタイプがあります。1つは、角膜や水晶体の屈折力が強すぎて網膜より手前で焦点を結んでしまうタイプ、もう1つは眼軸長(がんじくちょう)が長すぎるタイプです。強い近視は、たいてい眼軸が長いことが原因で起こっています。
近視の原因は遺伝や環境的な要因?
近視の原因は、今のところ完全にはわかっておらず、遺伝因子(生まれつきの素質)と環境因子(生活環境や習慣など)の両方が複雑に関係していると考えられています。例えば、長時間目を酷使するような作業を続けたとしても、近視になってしまう人とならない人がいることから、環境因子のみで近視になるかどうかが決まるわけではないことがわかります。
一方、遺伝因子が強くはたらくケースがあることもわかっています。例えば、親が強度近視の場合、その子供にも早いうちから強い近視がみられることがあります。また、両親ともに弱い近視がある場合も、子供が近視になる確率が高いことが報告されています。ただし、近視の親を持つ子供が必ず近視になるとは限らないため、近視の原因をすべて遺伝因子だけで説明できるわけではありません。1)
近視は単純近視と病的近視の2つがある
近視には、「単純近視」と「病的近視」の2種類があります。
単純近視とは、視力矯正を行えば、視機能障害をきたさない近視のことで、いわゆる「学童近視」(または「学校近視」)もここに含まれます。成長期には、身長が伸びるとともに眼球も大きくなるため、眼軸長が伸びて近視になりやすいと考えられています。このタイプの近視は、だいたい小学校低学年から始まり、高学年になるほど増加する傾向にあります。
一方、病的近視とは、さまざまな視覚機能障害を伴う近視のことで、失明につながる可能性もあります。強度近視で眼軸が長いと、網膜や脈絡膜が後方に引き伸ばされて大きな負荷がかかります。そのため、眼球の後部に変形が見られ、視神経や網膜が障害されることがあります。結果として、矯正視力の低下や中心暗点(視野の中央が暗くなる)、視野の歪みなどの症状が現れることがあり、このような強度近視を病的近視と呼びます。
近視の予防法ってあるの?
近視は、上でも説明したとおり、遺伝因子と環境因子が複雑に絡み合って起こると考えられていますが、近年明らかに近視の増加・低年齢化が見られる2)ことから、環境因子の重要性が指摘されています。では、生活環境や習慣を変えることで、近視を予防することはできるのでしょうか?
最近の生活環境の変化として第一に挙げられるのが、スマホやタブレット、パソコンの使用時間の増加です。特に子供や若い世代の人は、このようなデジタル機器を、仕事やゲームなどで長時間使用する機会が増えており、このことが近視の発症・進行の一因と考えられています。
近視を予防するには、近くを見続ける作業を減らすことが大切ですが、デジタル機器が普及した現代では、なかなか減らすことは難しいかもしれません。その場合でも、デジタル機器を使用する際には、次のような点に注意しましょう。
- デジタル機器を目から30cm以上離して使用する。
- 正しい姿勢で作業する。
- 1時間に10分程度の休憩を取り、目を休ませる。
- 室内を十分な明るさに保つ。
また、最近では、子供の「外遊び」の減少が、近視につながる原因の1つであることが明らかにされています。子供が屋内で過ごす時間が増え、日光を浴びる時間が減ることによって、近視になりやすくなるということがわかってきたのです。実際に、子供~青年の時期に日光を長時間浴びると、近視になるリスクを低下させるとともに、近視の進行を遅らせることができるという研究結果が報告されています。さらに子供では、1日2時間程度、屋外で日光を浴びることが有効であることも明らかになっています。ただし、日光には皮膚がんや白内障の発生リスクを高める紫外線も含まれていますので、注意が必要です。3)
子供の「外遊び」には、日光を浴びる時間を増やすほかにも、スマホやゲームの時間が結果的に減るという効果もあり、2重の意味で近視予防につながるといえるでしょう。
近視がどのぐらい進行したらメガネやコンタクトレンズが必要?
子供の場合、学校で黒板の字が見えづらくて勉強に支障が出たり、体育の時間に不自由を感じたりするのであれば、メガネなどを使った方がよいでしょう。大人の場合も、生活に支障が出ているのであれば、メガネやコンタクトレンズで矯正しましょう。特に車の運転をする人は、両目での視力が0.7に達しない場合には矯正が必要です。
日常生活に支障があるのに近視を放っておくと、眼精疲労などが起こり、目以外の部分にも不調が起きてくることがあります。また、近視が進行して強度になった場合には、緑内障などの視力を損なう可能性のある病気のリスクを高めることにもなるため、正しく対処することが重要です。
近視用コンタクトレンズの使用に、年齢制限はありません。最近では、スマホやタブレットといったデジタル機器の普及により、近視が低年齢化していることに加え、コンタクトレンズの使用開始年齢も早くなっていて、コンタクトレンズ使用者が増加しています。しかし同時に、コンタクトレンズ使用者の増加に伴い、目にトラブルを起こす人も増えています。コンタクトレンズは目に直接装用する医療機器ですので、使用方法を誤ると、目の病気や障害につながることもあります。きちんと眼科を受診した上で、自分に合ったコンタクトレンズを正しく使用することが大切です。
近視の矯正方法や進行予防方法はあるの?
近視の矯正
メガネやコンタクトレンズを使った矯正のほかに、オルソケラトロジーや屈折矯正手術などの方法があります。いずれの場合でも、眼科医とよく相談した上で、自分に適した方法を選ぶ必要があります。
- オルソケラトロジー
オルソケラトロジーとは、眠っている時に特殊なコンタクトレンズ(高酸素透過性のハードコンタクトレンズ)を装着し、目の表面にある角膜の形状を変えて屈折力を変化させることで近視を矯正する方法です。 - 屈折矯正手術
屈折矯正手術には、目の中に特殊なレンズを入れる手術(有水晶体眼内レンズ手術)や、レーシック手術(レーザーを照射して角膜の屈折力を調整する方法)などがあります。屈折矯正手術は、主にメガネやコンタクトレンズの装用に課題のある人や、これらの装用に適さないような活動を行う人を対象に行われています。手術を受けることができるのは、基本的に目と身体が健康な18歳以上の人です。手術は一般的に、目薬で目に麻酔をかけた後、短時間で終わります。それぞれの手術には適応はもちろんのこと、メリットやデメリット、リスクがあります。眼科医と十分に話し合った上で、検討してください。
近視進行予防
近視の進行を予防する方法としては、上で挙げたオルソケラトロジーのほか、低濃度調節麻痺薬の点眼や多焦点レンズを使用する方法などが挙げられます。実際に行う際には、事前に眼科医と相談し、生活環境の改善とともに取り入れるのが良いでしょう。
- オルソケラトロジー
オルソケラトロジーには眼軸長の伸びを抑える効果があり、近視の矯正だけでなく、進行予防にも有用とされています。 - 低濃度調節麻痺薬
アトロピンという成分が低濃度で含まれている目薬(調節麻痺薬)を使用すると、近視の進行が抑えられたという報告があり、国内外で進行予防法として評価が進んでいます。 - 多焦点レンズ(メガネ・コンタクトレンズ、DIMSレンズ)
多焦点コンタクトレンズの装用によって、眼軸長の伸びが抑えられたという報告があります。4)このような報告に基づき、現在は海外で子供の近視進行を抑えるための多焦点ソフトコンタクトレンズの臨床研究・開発が進行中です。4)また最近は、特殊な加工が施されたDIMS(Defocus Incorporated Multiple Segments、デフォーカス組み込み型)レンズが登場しており、このレンズに関しても近視の進行を抑える効果が報告されています。5)
まとめ
近視は適正に矯正することが必要です。心当たりのある方は自己判断せず、必ず眼科医の診察を受けてください。
参考サイト
- 公益財団法人 日本眼科学会
https://www.nichigan.or.jp/ - 公益社団法人 日本眼科医会
https://www.gankaikai.or.jp/ - 日本近視学会
https://www.myopiasociety.jp/ - 日本弱視斜視学会
https://www.jasa-web.jp/ - MSDマニュアル プロフェッショナル版
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%AB
参考文献
- 1) 山城健児 医学のあゆみ 245(10), 849-853, 2013
- 2) 五十嵐多恵 日本視能訓練士協会誌 49, 7-12, 2020
- 3) Lingham G et al., Br J Ophthalmol. 104, 593–599, 2020
- 4) 不二門尚 他 視覚の科学 40(4), 89-94, 2019
- 5) 祁 華 他 視覚の科学 40(4), 99-103, 2019