遠視とは?見え方の仕組みや原因・解説
遠視とは?屈折異常が起こるしくみ
目の機能を例えるなら、カメラが分かりやすいです。カメラのレンズに相当するのが、角膜(黒目)と水晶体、フィルムが網膜です。外から入ってきた光は、角膜と水晶体で曲げられて、網膜の上に像を結びます。ピントの調整は、水晶体が厚みを変え、屈折力を調整することによって行われています。これは調節と呼ばれ、屈折とは別の概念です。
遠くのものを見たときに網膜上にピントが合う状態のことを「正視」というのに対し、屈折力が強すぎたり、弱すぎたりして、ピントが網膜からズレてしまう状態を「屈折異常」といいます。遠視とは、屈折異常のひとつで、網膜より後ろで焦点があってしまう状態のことをいいます。軽度の場合は、目の調節により、焦点が網膜上へ移動し、よく見える状態をつくることができます。
遠視の種類は2つある
遠視には、「軸性遠視」と「屈折性遠視」という2種類があります。
- 軸性遠視:眼軸(眼球の奥行のこと、左下図)が短いために起こる遠視のことです。
- 屈折性遠視:水晶体や角膜の屈折力(光を曲げる力)が弱いことにより起こる遠視です。
遠視がある方は、これら2種類の状態を両方とも持っている場合が多いです。
軸性遠視
屈折性遠視
遠視が引き起こす症状
遠視になると、程度にもよりますが、次のような症状を引き起こす場合があります。
大人の場合
遠くも近くもクリアに見るために、常に目の調節機能を働かせることになるので、目の疲れや、眼精疲労による肩こり、頭痛、吐き気などが起こることがあります。また、正視の状態に比べて、近くを見る時により多くのピント合わせ(調節)が必要になるため、老眼の自覚症状が早めに出る場合があります。
子供の場合
遠視の程度により、斜視になったり、弱視になったりする可能性があります。心当たりがあれば、早めに眼科を受診しましょう。
遠視と老眼の違いとは?
「遠視」と「老眼」は、ともに近くが見えづらいという症状や老眼鏡がプラスレンズ(プラス度数、遠視矯正で使うレンズ)であることなどから、同じ現象だと誤解されがちですが、原因は全く違います。遠視は、上でも説明したとおり、眼軸が短いことや角膜・水晶体の屈折力が弱いことが原因で起こる「屈折異常」です。一方、老眼は、加齢とともに水晶体が柔軟性を失い、ピント調節がうまくできなくなるために起こる「調節異常」です。見えづらさが生じるメカニズムは、遠視と老眼の間で全く違うのです。
ちなみに、老眼は40歳頃から誰もが経験する症状です。近視の人は老眼になっても裸眼なら近くが見えるので、老眼にならないと思われがちですが、「近視の人は老眼にならない」わけではなく、近視の人を含め、老眼は誰にでも起こります。
遠視によって起こる弱視とは?
「弱視」とは、医学的には「視力の発達が障害されておきた低視力」と定義されていて、メガネなどを使用しても視力が十分に得られない状態を指します。
子供の視覚は、おおむね生後3年間で大きく発達しますが、その後も8歳ぐらいまで発達が続きます。この間、視覚が正常に発達するには、目が適切な形で刺激を受けることが必要で、ピントが合わない状態が続いたりすると、弱視になってしまうことがあります。早い時期に弱視を発見・治療できないと、重度の視力障害につながってしまう可能性があるのです。
弱視になる原因の1つが、遠視や近視、乱視などの屈折異常であり、中でも最も多いのが遠視です。遠視のせいで視野がぼやけた状態のまま、視覚の発達に重要な時期を過ごしてしまうと、視覚が十分に発達せず、弱視につながってしまうことがあります。
遠視などの屈折異常が原因で起こる弱視には、「屈折性弱視」と「不同視弱視」の2種類があります。屈折性弱視とは、生まれつき両目に同程度の屈折異常がある場合に起きる弱視のことです。一方、不同視弱視とは、屈折異常の程度が左右の目で大きく異なっている場合に、屈折異常が強い方の目に起こる弱視のことを言います。
遠視と斜視の関係
斜視とは、左右の目で視線が違う方向に向いている状態のことを言います。つまり、片方の目が正面を向いているのに、もう片方の目が内側や外側、上や下など、違う方向を向いている状態です。比較的多い目の病気の1つで、子供の約2%に斜視がみられると言われています。
斜視の原因はさまざまですが、遠視も斜視を引き起こす原因の1つに挙げられます。通常、私たちが近くにあるものを見るとき、ピントを合わせるために自然と両目が内側を向きますが、遠視がある人は、近いものにピントを合わせる際に、非常に多くのピント合わせが求められるため、それに伴って目が内側に寄ってしまうことがあるのです。このような「目の向きによるピント調節」が過剰にはたらいてしまうことがあります。このような理由で、遠視がある子供には、目が内側を向く「内斜視」が多く見られる傾向があります。なお、遠視が原因で起こる内斜視のことを特に「調節性内斜視」といいます。
遠視の治療方法は?
残念ながら、遠視を根本的に治療する方法はありません。日常生活に支障が出ている場合や、斜視・弱視などの症状が認められる場合には、メガネやコンタクトレンズによって、視力を補正することが一般的な対処法です。メガネやコンタクトレンズを購入する際には、まず眼科で検査を受けてから、自分の目に合った製品を選ぶようにしてください。
遠視を放置しておくと、眼精疲労を起こし、目以外の部位にも肩こりや頭痛といった不調が起きてくることがあります。さらに、年齢によっては手元がよく見えないことで、仕事や勉強に集中できないといった悪影響もあるでしょう。
また、子供の遠視を放っておくと、弱視や斜視につながる可能性もありますので、見にくそうにしている、目を細めて見る、などの様子に気づいた場合には、速やかに眼科を受診してください。
まとめ
遠視を放置していると目に負担がかかることがあります。少しでも心当たりがある方は眼科医に相談しましょう。
参考サイト
- 日本弱視斜視学会
https://www.jasa-web.jp/ - 公益社団法人 日本眼科医会
https://www.gankaikai.or.jp/ - MSDマニュアル プロフェッショナル版
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%AB