眼瞼下垂とは?
眼瞼下垂とはどんな病気?
眼瞼下垂とは、さまざまな原因によって上のまぶたが下がってくる病気です。
まぶたを上げて目を開けた状態に保つには、上眼瞼挙筋(じょうがんけんきょきん)という筋肉のはたらきが不可欠です。上眼瞼挙筋の下側は、挙筋腱膜(きょきんけんまく)という薄い膜状の構造になっていて、まぶたの先端にある瞼板(けんばん)という部分に付着しています。
まぶたの構造
「まぶたが上がる」という現象を細かく見ていくと、
という仕組みになっています。この仕組みの大元である上眼瞼挙筋が弱くなったり、挙筋腱膜が伸びる・はずれるといった異常が起きたりすると、まぶたが上がらなくなってしまいます。この状態が眼瞼下垂です。
なお、上眼瞼挙筋の裏側にあるミュラー筋にも、まぶたを上げるはたらきがあり、眼瞼下垂が起きたときには、この筋肉が強くはたらくとされています。ミュラー筋のはたらきは、心身の興奮状態を調節している交感神経によって制御されています。
先天性眼瞼下垂
生まれつきの眼瞼下垂のほとんどは、上眼瞼挙筋の発達が不十分なために起きる単純性眼瞼下垂です。このタイプの眼瞼下垂では、上眼瞼挙筋が本来あるべき場所に、硬くて伸びにくい線維組織が多くみられます。まぶたが下がってしまう以外に異常はありませんが、片側のみに重度の眼瞼下垂がある場合には、視力の発達が損なわれ、弱視になることがあります。こうしたケースでは、弱視予防のために厳重な経過観察を行うとともに、必要に応じて手術を行うこともあります。ただし、子供があごや眉を上げてものを見ようとしているのであれば、視機能が正常に発達していることが多く、小さいうちに手術をする必要がない場合がほとんどです。
他に、先天性眼瞼下垂の場合、マーカスガン現象を伴う場合があります。この眼瞼下垂では、まぶたを上げる筋肉と、口を動かす筋肉が神経的につながってしまっているため、口を動かすとまぶたが上下に動いてしまいます。片側の目だけに症状が現れることがほとんどで、何もしないときにはまぶたが下がっています。このタイプの眼瞼下垂があっても、視機能の発達が損なわれることはありませんが、自然に治ることは極めてまれです。症状のない側のアゴでかむ習慣をつけると、症状を抑えることができます。
後天性眼瞼下垂
後天性の眼瞼下垂で最も多いのは、挙筋腱膜がはずれてしまったり、伸びて緩んでしまったりすることで起きる腱膜性眼瞼下垂です。加齢が原因となって起きるほか、ハードコンタクトレンズを長く使用している人や、開瞼器(かいけんき)という目を開けるための器具を使った手術を受けた人にも起こりやすいとされています。ハードコンタクトレンズが腱膜に対して持続的に刺激を与えること、あるいは開瞼器が腱膜を傷つけてしまうことが一因と考えられています。他にも、怪我や病気(脳動脈瘤、ホルネル症候群、重症筋無力症など)が原因となることもあります。
また、眼瞼下垂に似た症状として、上眼瞼皮膚弛緩症(偽性眼瞼下垂)というものがあります。この症状は、まぶたの筋肉や腱に問題があるのではなく、加齢に伴って上まぶたの皮膚がたるむことで生じるものです。
若者でも眼瞼下垂になる人が
増えている理由は?
上で説明した腱膜性眼瞼下垂は、加齢に伴って起こることが多いですが、普段の生活習慣などが原因で起こることもあります。前述のようにハードコンタクトレンズの長期使用によって生じることがあるほか、コンタクトレンズ取り外しの際に上まぶたを強くひっぱる、花粉症やアトピーなどのかゆみで目の周りをこする、クレンジングの際にまぶたをゴシゴシこするなどの動作も腱膜が傷つく原因となりうるため、若い人でも眼瞼下垂になることがあります。
眼瞼下垂はどんな症状がでるの?
眼瞼下垂の症状には以下のようなものがありますが、これらの症状が全て起こるわけではありません。また、これらの症状は他の病気でも起こることがあります。
眠そうにみえる
(外見的・美容的な問題)
まぶたが下がるため、眠そうにみえます。また、ひたいの筋肉を使ってまぶたを上げようとするため、ひたいのしわが増えるなどの外見的・美容的問題が生じます。
開瞼障害
まぶたが下がって十分に目を開くことができない、まぶたが重く感じるなどの症状が現れます。
ものが見えにくい
まぶたが下がるため、ものが見えにくくなります(特に上方の視野がせまくなる)。
肩・首のこり
まぶたが下がると、ものを見るときに、アゴを前に突き出して首を後ろに曲げた姿勢になりやすいため、肩や首のこりが生じることがあります。
頭痛
無理やりひたいを上げようとして、おでこの筋肉に力を入れて続けてしまうと、頭痛が起こることがあります。
逆まつげ
まぶたが下がることで、上まぶたに生えている睫毛(まつげ)が目の内側に向いてしまう場合があります。すると、睫毛が角膜にあたり、目の違和感や痛み、視力障害を生じることがあります。
眼瞼下垂になってしまう
行動とは?
目やまぶたをゴシゴシとこする
かゆみで目をこすったり、クレンジングの際にまぶたをゴシゴシ洗ったりすると、まぶたの中にある腱膜などを傷つけてしまい、眼瞼下垂になることがあります1)。アレルギーによるかゆみがある場合には、点眼薬や経口薬などを使用してアレルギーに対する治療を行いましょう。
上まぶたを強く引き上げる
ハードコンタクトレンズを取り外す際、上まぶたを外側にひっぱった状態でまばたきをします。この取り外し方を長年続けると、筋肉がまぶたに付着する腱の部分がはずれてしまい、眼瞼下垂になることがあります2)3)。そのため、コンタクトレンズを取り外す際は、上まぶたを強く引き上げないようにしましょう。
眼瞼下垂の検査方法
基本的には次に挙げた3種類の検査を行い、眼瞼下垂の重症度を判定します。各項目について左右差があるかどうかも調べます。
●瞼裂高(けんれつこう):黒目の下端から上まぶたの縁までの距離のことです。
●MRD(margin reflex distance):瞳(瞳孔)の中心から上まぶたの縁までの距離のことです。
●挙筋機能:挙筋の力によってまぶたをどれくらい持ち上げることができるか測定します。上まぶたをあげるときにひたいの筋肉を使わないよう、眉毛の上を抑えた状態で測定します。
ほかにも、重瞼線(二重まぶたの線)や眼瞼溝(眉毛の下側にできるくぼみ)の有無、瞳孔と瞼裂高の位置関係、まぶたの閉じ方や眼球運動も確認します。さらに、神経麻痺や全身疾患が原因として考えられる場合は、採血やCT・MRIなども行うことがあります。
加齢やコンタクトレンズの長期使用による劣化が原因の場合は、これらの検査によって挙筋機能の衰えが確認されることが多いです。一方、脳梗塞などによる神経麻痺が原因の場合はCTやMRI検査で、重症筋無力症の場合は血液検査で異常が見つかります。
眼瞼下垂の治療方法とは…
挙筋前転術
二重(ふたえ)の線をメスで切開し、伸びてしまった挙筋腱膜を前方に引っ張りながら瞼板に縫い付けて固定します。腱膜のたるみがなくなるため、まぶたを引き上げる力がしっかりと瞼板に伝わり、まぶたが十分に開くようになります。
前頭筋つり上げ術
眉の部分からまぶたにかけてトンネルを作り、そこに人工の素材や大腿筋膜を通して、おでこの筋肉(前頭筋)とまぶたをつなげる手術です。こうすることで、前頭筋の力を使ってまぶたを開くことができるようになります。
まぶたを上げる上眼瞼挙筋の動きが悪い場合や、上眼瞼挙筋を支配する神経の麻痺がある場合に行います。
眼瞼下垂予防を防ぐには?
上記の「眼瞼下垂になってしまう行動とは?」で取り上げた、「目をこする」、「劣化したレンズを使用する」といった行動を避けるようにしましょう。また、ハードコンタクトレンズを使用している方は、コンタクトレンズを取り外す際、上まぶたを強く引き上げず、優しく取り外すようにしましょう。
まとめ
眼瞼下垂は、外見やものの見え方に影響するだけでなく、さまざまな症状を引き起こします。普段の生活の中に、まぶたを傷つけてしまうような習慣がないか見直しましょう。眼瞼下垂になってしまった場合は、手術によって治療できますが、治療効果には個人差があるため、担当医師とよく相談の上で治療計画を立ててください。
参考文献
- Griffin RY et al. Ophthalmic Plast Reconstr Surg 22:438-40, 2006
- Thean JH and McNab AA Clin Exp Optom 87:11-14, 2004
- Hwang K and Kim JH J Craniofac Surg 26:e373-4, 2015
参照サイト
- 公益社団法人 日本眼科医会
https://www.gankaikai.or.jp/ - 公益財団法人 日本眼科学会
https://www.nichigan.or.jp/ - 一般社団法人 日本形成外科学会
https://jsprs.or.jp/