
斜視

斜視とは?
斜視とは、右目と左目の向きが違う方向に向いている状態をいいます。つまり、片目はまっすぐに前を向いていても、もう片方の目が違う方向を見ている状態のことです。子供の約2%に斜視がみられると言われています1)。
斜視の種類
斜視は、両目の向きにずれが起きる頻度やすれの方向によって、いくつかに分類されます。斜視が常にみられるものを恒常性斜視、ときどきみられるものを間欠性斜視といいます。また、視線のずれの方向によって、内斜視、外斜視、上斜視、下斜視などに分けられています。
子供に最も多くみられるのは間欠性外斜視であり、次いで多いのは遠視が原因となって起きる調節性内斜視です。


斜視の症状や見え方は?
斜視の特徴は、両目の向きにずれがあることです。それ以外にも、特に外斜視の場合には、眩しいときに両目をあわせにくくなるため、「まぶしがり」や「片目つむり」といった症状もみられます。
学童期(6~12歳)以降に斜視が起こると、ものが二重に見える「複視」を自覚することがあります。一方、乳幼児時期の斜視では、斜視が起きている側の目から入った情報が脳で無視されるため、「複視」は起こりません。
また、斜視に似た症状として、以下のようなものがあります。
斜位
ふだんは両目の目の向きがそろっているのに、片目ずつ調べると目の向きがずれている状態をいいます。わずかな斜位はほとんどの人に見られますが、目の向きのずれ幅が大きいと左右の視線を合わせる努力をしなければならないため、眼精疲労の原因となります。

偽斜位
見かけ上は視線がそれていて斜視のように見えますが、実際には両目の向きがそろっている状態です。
乳幼児では、目頭の皮膚が内側の白目を隠してしまい、内斜視のように見えることがあります(偽内斜視)。

斜視の原因とは…
斜視の原因には以下のようなものがあります。
目の筋肉や神経などの異常
眼球を動かす筋肉(眼筋)や神経に病気があると、眼球をうまく動かせずに目の向きがずれて、斜視になることがあります。
遠視
近いものを見ようとするとき、眼筋は両目を内側に寄せますが、遠視がある人の場合は、ピントを合わせる力がより強く必要なため、目が内側に寄りすぎてしまい斜視になることがあります(調節性内斜視)。調節性内斜視の多くは1歳6カ月から3歳までに発症します。
両眼視の異常
両眼視とは、あるものを両目で見たときに、それぞれの目から取り入れた情報を統合し、1つのものとしてとらえる能力のことです。この能力も、視力と同じように、絶えずものを見ることによって発達していきます。生後1歳頃から両眼視ができるようになり、6歳頃にはこの機能が完成するといわれています。両眼視が生まれつきできなかったり、両眼視の発達が途中で妨げられたりすると、斜視になります。
近年、小児から10代の若者の間で、スマホやゲーム機などの使いすぎによって起こる「急性内斜視」が報告されています2)。今のところ、因果関係が科学的にはっきりと証明されているわけではありませんが、スマホやゲーム機の使用を控えると斜視が改善することから、小さい画面を近い距離で長時間(1日4時間以上)見つめ続けることが原因ではないかといわれています。通常は、見ようとするものが近くにある場合、両目を内側へ寄せることで両眼視を維持することができますが、斜視になると視線がずれるため、うまく両眼視ができなくなってしまいます。
視力不良
病気やけがのせいで片目または両目の視力が極端に悪くなると、両眼視ができず斜視になります(廃用性斜視)。
全身疾患に伴う斜視
成人では、糖尿病や高血圧、甲状腺機能異常、重症筋無力症のほか、脳腫瘍や脳動脈瘤、頭部外傷といった脳に関連する病気でも、斜視がみられることがあります。
先天性眼疾患
小児の場合、斜視がみられたことをきっかけに、先天性白内障や先天性緑内障、網膜芽細胞腫といった先天性の眼疾患が見つかることもあります。
斜視はどのように調べるの?
両目の向きを注意深く観察することで見分けることが可能です。眼科では、両目をペンライトで照らす方法(角膜反射法)や、片目を隠して眼球の動きを観察する方法(遮蔽試験)などで、斜視を調べます。
斜視にはどんなリスクがあるの?
乳幼児期に斜視が起こると、斜視が起きている側の目から入った情報を脳が遮断してしまうため、視力が発達せず弱視になります。また、両目でものを同時に見て遠近感や立体感をとらえる両眼視が発達しません。両眼視は、子供の運動能力や読み書き能力の発達にも重要であるといわれています3)。
斜視の治療方法とは…
手術
遠視が原因の調節性内斜視以外は、手術で治療します。斜視手術では、眼球に付いている眼筋を調整して、眼のずれを治します。通常、局所麻酔下で行われますが、小さい子供では全身麻酔をかけて手術を行うことが多いです。
斜視が原因で弱視になっている場合は、弱視を改善するトレーニングを行い、視力が改善してから手術をします。
メガネの装用(屈折矯正)
強い遠視があると、ハッキリ見ようとピント合わせを頑張っても見えないため、弱視になります。中等度の遠視の場合、ピント合わせを頑張れば見えるようになるため、この過剰なピント合わせに伴って寄り目になり、調節性内斜視になります。このような斜視では、遠視を矯正するメガネをかけたときにだけ内斜視がなくなります。
プリズムの装用
光を一定方向に曲げる作用のある、プリズムレンズをメガネに取り付けます。プリズムレンズを通して見ると物の位置が本来ある場所から少しずれて見えるようになります。視線のずれをプリズムレンズで補完することにより、両目で見る機能を養うことを目的としています。斜視そのものは治すことはできません。
治療後に再発することはあるの?
手術は、眼球を動かす筋肉の位置を調節して「ずれを減らす」ことを目的として行うものであるため、斜視を完全に治すことができる治療ではありません。手術後に再び斜視が見られるようになることもありますが、手術前よりは改善することがほとんどです。また、両眼視がうまくできない場合には、手術をしても斜視が再発することがあるため、両眼視のトレーニングを行うこともあります。
調節性内斜視は、メガネやコンタクトレンズの装用により改善しますが、完全には治らずに斜視が残る場合もあります。
まとめ
斜視になると、立体感覚や奥行き感をとらえる両眼視機能が低下します。視覚の発達時期にある子供が斜視になると、この両眼視が十分に発達しなかったり、弱視になることがあります。斜視は見た目だけでなく、見え方にも深刻な影響を及ぼします。斜視は、早期発見、早期治療が重要なため、3歳児健診の眼科検査を必ず受診しましょう。
●参照サイト
日本弱視斜視学会
公益社団法人 日本眼科医会
国立研究開発法人 国立成育医療研究センター
●参考文献
1) 公益社団法人日本眼科医会HP(https://www.gankaikai.or.jp/)
2) Lee HS et al. BMC Ophthalmol. 16: 37, 2016.
3) 国立研究開発法人 国立成育医療研究センターHP(https://www.ncchd.go.jp/hospital/sickness/children/019.html)


