あなたの目が危ない!
深刻化する近視問題と
放置することのリスク
1.教室内は裸眼で黒板が見えない子どもばかり!?
授業中、ちゃんと黒板が見えていますか?実はいま、子どもの近視が非常に進んでいます。文部科学省が2019年に、小・中学校、高校などを対象に行った学校保健統計調査*1では、「裸眼視力1.0未満の者」は小学校・高校で過去最悪を記録し、中学校でも5割以上が該当しました。
すでに小学生の3人に1人が
1.0未満という衝撃
日本ではここ40~50年で近視の子どもたちが急激に増加しています。さらに学年が上がるごとに、近視の子どもが増えています。小学生については調査が開始された1979年には17.9%だった近視の人数は、2019年には34.5%に倍増しました。中学生では、35.1%(1979年)から57.4%(2019年)、高校生になると約70%が近視であり、何らかの視力補正の必要があることが分かります。
近視の低年齢化が顕著、
視力0.3未満の生徒が増加
近視の中でも視力0.3未満の子供の人数も学年が上がるごとに増加しています。高校生では全体の約40%が強度近視ですが、特に注目すべきなのは小学校層の変化です。中等および強度近視の子供の比率が40年前の約2倍に増加しています。近視の発症が低年齢化しており、小さいうちから強い近視を持つ子どもたちが増えているのです。
世界でも東アジアで特に近視が増加傾向にあり、東アジアでは都市部を中心に若者の近視の割合が高く80~97%を占めています*2。子どもで見てみると、中国では、6歳から18歳になるまでに近視になる割合がなんと10%未満から80%にまで上昇*3、シンガポールでは、子どもの2人に1人が12歳までに近視を発症し*4、10代の若者の75%が近視で眼鏡を使用しています*5。日本のみならず、世界中で近視が問題になっているのです。
2.近視は病気です!進行を食い止めることが重要
「人は情報の約80%を視覚から得ている*6」といわれるくらいに、目は人にとって重要な器官です。しかし、人は見えることが当たり前すぎてその重要性を考えることすらありません。眼鏡やコンタクトレンズをすぐ作れる環境にある日本のような国ではなおさらです。
近視は、世界で最も罹患率の高い病気です*7, 8。近視によって、網膜変性および剥離、白内障、緑内障といった合併症のリスクが高まります。そして強度近視の状態が続くと、網膜や視神経が障害されたりして眼球に異常が発生する「病的近視」を発症し、失明の原因になることが知られています*9。
日本で視力矯正を必要とする人々の割合は非常に高く、多くの人々はすでに眼鏡やコンタクトレンズなどの対策をとっているため、問題と感じない状態になっています。
多くの人は見えることがあたり前ととらえていますが、人は見えなくなることを最も恐れています。「五感の中であなたが100歳まで健康を維持したい機能を一つ選ぶとしたら?」と尋ねたところ、「視覚」と回答した人が8割近くを占めました。人生100年時代と言われる現代、特に目への関心が高まっているといえます。
近視が進んで見えにくくなったら、また眼鏡やコンタクトレンズを作り直せばいい、ということではなく、早い時期から意識を高めて、近視の進行自体をなんとか食い止めることが重要です*10。日ごろから目をいたわる生活を心がけ、定期的に眼科検診をしましょう。
3.原因究明のための取り組み
人種的な差によりアジア系では近視が多く、遺伝が関与していることは一般的にも知られていますが、現在のところ、なぜ近視になるのかはさまざまな要因が関わり合っているといわれ、決定的な要因は明確にされていません。原因が究明されていないために、治療薬や治療機器は研究の途上にあります。
2018年11月、シンガポール国立眼科センター、シンガポール眼科研究所およびジョンソン・エンド・ジョンソンは共同研究を行うことを発表しました*11。さらに、文部科学省は、2021年4月より全国の小学校および中学校の9,000人を対象に、近視についての実態把握のための大規模な調査を開始しています*12。同じく2021年4月、日本国内コンタクトレンズメーカー大手のメニコンとジョンソン・エンド・ジョンソンは近視進行抑制のための研究および製品開発においてグローバルな業務提携を発表しました*13。近視を今世紀最大の目の健康に対するリスクのひとつと位置づけ、世界の研究機関や政府、企業が対策に立ち上がっています。
まとめ
近視かな?と思ったら…
近視を放置することのメリットはひとつもありません。「最近黒板が見づらい」「目の調子が悪い」などの症状を感じた場合、早急に眼科を受診しましょう。
●監修
筑波大学 医学医療系眼科 准教授
平岡 孝浩(ひらおか たかひろ)先生
筑波大学医学部専門学群卒業。1999年、茨城西南医療センター病院眼科科長。2005年、筑波大学大学院人間総合科学研究科講師。2008年、茨城県眼科医会理事。2020年、日本コンタクトレンズ学会理事、筑波大学医学医療系眼科准教授。2021年、日本近視学会理事。近視や眼光学などを専門に研究を行なっている。多数の受賞歴あり。
*1 文部科学省「学校保健統計調査2019」
*2 Ding et al Survey of Ophthalmol 2015
*3 Taiwan, Lin et al 2000 Ann Acad Med Singapore 2004; 33:27-33
*4 SingHealth, Eye Check A look at common eye conditions
*5 HealthXchange, Common Eye Problems by Age Group, Stats and Care Tips
*6 産業教育機器システム便覧(教育機器編集委員会編 日科技連出版1972)p.4、屋内照明のガイド(照明学会編電気書院1980)p.9
*7 Holden BA et al. Ophthalmology 2016; 123, 1036-1042
*8 Fricke et al Ophthalmol 2018; 125(10):1492-1499
*9 Flitcroft DI et al. IOVS. 2019; 60(3): M20-M30
*10 Annals of Eye Science, 2018;3:8 Pathologic Myopia
*11 https://acuvuevision.jp/sites/acuvue_jp/files/acuvue-press-0211.pdf
*12 https://www.mext.go.jp/content/20210215_mxt_sigakugy_1420538_00003_6.pdf
*13 https://acuvuevision.jp/sites/acuvue_jp/files/acuvue-press-0232.pdf